熱中症ケーススタディ部活動編
〜多発する死亡事故を防ぐには〜

スポーツ時の熱中症は十代を始め若年層に多いです。
また、学校の部活動における熱中症死亡事故は野球部に突出しています。
野球の練習時間が長いことが原因の一つと考えられています。
練習中に気持ち悪くなったり、フラフラして力が入らなくなったり、そういった経験をしている野球部員は結構多いのではないでしょうか？

スポーツ種目別 熱中症発生傾向（１９７５〜２０１１年）

出典：文部科学省、（独）日本スポーツ振興センター
熱中症を予防しよう―知って防ごう熱中症―

事例O君は中学２年生で野球部所属。

当日は１０月の平均気温より４〜５℃高い28.2℃。

ある夏、ボーイズリーグ主催の関西秋季大会が行われ、これに出場しました。
しかし負けてしまい、監督は、「ペナルティ」としての練習を行うとし、選手たちに指示し、練習が開始されました。
Ｏ君はまず全力での投球練習を行いました。日没後は５分程度休憩させただけで、休憩時間をあまりとることなく20ｍダッシュ100本を繰り返すよう指示しました。そのダッシュ中にO君は何度か倒れてしまいますが、監督は適切な処置を行わずにそのまま放置しました。その後異変に気付いた保護者によって救急車の要請がされ病院に運ばれ、熱中症、急性循環呼吸器不全と診断されました。その翌日、DIC、多臓器不全で亡くなりました。
※DICとは血液凝固のメカニズム異常の病態。熱中症のほか様々な要因で発症する。

解説

気温が35℃を超えた日や、気温がさほど高くなくても湿度が高い日の運動は「熱中症予防のための運動指針」の中で、原則中止とされています。（参考：熱中症とWBGTの関係）当日の最高気温は28.2℃で平年に比べ約４℃も高く、グランドの気温は輻射熱の影響によりさらに４～５℃は高いため体感温度は３５℃近かったと推測できます。暑さの中で運動するときは定期的に休憩し、こまめに水分補給を行わないと、熱中症を引き起こしてしまいます。O君は試合後、疲れているところでダッシュなど過酷な練習をしており、さらに秋口ということで暑さに身体が慣れていなかったことなどが原因になっていると考えられます。

この事例では監督への過失を問う裁判が行われました。その後、和解が成立しました。環境が変化し酷暑となっている昨今、今までのような根性論でのトレーニングは非常に危険なものになっていると世間に知らしめた事例でした。

指導する教員や指導員は、練習環境のチェックや生徒達の健康状態に気を配り、部活動中の死亡事故を未然に防ぐことが求められているのです。たとえ気温が低くとも湿度が高いと熱中症リスクが高くなることから、気温だけでなく湿度も含めた熱中症指数WBGTの活用が重要です。

WBGTとは

WBGT（Wet Bulb Globe Temperature）とは湿球黒球温度のことで暑さ指数と呼ばれます。熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標です。 単位は気温と同じ摂氏度（℃）で示されますが、その値は気温とは異なります。WBGTは体と外気との熱収支（熱のやりとり）に着目した指標です。人体の熱収支に与える影響の大きい ①湿度、 ②日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、 ③気温の３つを取り入れています。

WBGTは労働環境や運動環境の指針として有効であると認められています。ISO等でも国際的に規格化されています。 （公財）日本体育協会では「熱中症予防運動指針」図：熱中症とWBGTのように公表し、活用を促しています。

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